【息】


冬の朝焼けは遅い。
秀麗が起きた時、いまだ昊は闇の中だった。

のそりと起き上がり衣を一枚多くはおる。
半蔀をあけると息が白く変わった。

切れるような冷たい空気が秀麗を包む。
秀麗は意識して空気を吸い込んだ。
とたん、胃がきゅぅっと縮こまる。
目をつむり眉間に皺を寄せて呼吸を止めた。
そして、ゆっくりと息を吐き出す。

仕事が憂鬱な朝もある。
それが贅沢な悩みだと知っていても。
秀麗は自嘲気味に笑った。
白い息を何気なく目で追って、いけない、と思いなおす。

秀麗はもう一度昊に向かって息を吐きなおした。
白く丸まって、ふっと消える。
よしっと頷いた。

下なんて見ていられない。
前を向くだけでは物足りない。
上を見上げていたい。

あの人達が立つ場所まで。

そして秀麗は不意に気づいた。
(この角度って・・・)

「お嬢様」
聞き慣れた声に秀麗は振り返る。
静蘭の穏やかな笑顔。
秀麗は朝一番の爽やかな表情で答えた。
「おはよう、静蘭。
 早いのね」
秀麗は静蘭をしみじみ見上げて、ふふっと笑った。
(やっぱり違うものだわ)
さぁ、一日をはじめよう。

昊を。
上を。
見上げる角度は、あの人を見上げるのとおんなじ。
階の上で、時折後ろを振り返る厳しい人。
でも。
思い出せば憂鬱なんて吹っ飛んで、心が温かくなる人。




2007/12/24


日付を打ってクリスマス・イブだと気づいてみたり。
でも、全然関係ないお話。
秀麗ちゃんを可愛い感じで。