木の陰で絳攸は目を剥いていた。
遠ざかる二人の気配。
聞き覚えのある声だった。
二人ともに。
そして言った事のある言葉だった。
はるか昔に。
ずるりと膝から崩れ落ちる。
心臓が早鐘のように鳴り響いていた。
絳攸はそろりと木の陰から顔を出す。
それはダメ押し。
一厘の可能性でもいい。
否定が欲しかった。
遠ざかっていく後姿を見て絳攸は笑った。
ハハハハ・・・・と乾いた声が響く。
紛れもなく彼らは、楸瑛と自分だった。
地面に座りこみそうになって・・・ふっと腰を上げる。
ちくりと足に痛みが刺さった。
(なんだ・・・・)
朦朧とした目で見る。
佩玉と花菖蒲が彫られた飾り玉。
へたりこんだ時に足に刺さったらしい。
こめかみが熱かった。ふつふつと怒りが沸いてくる。
「あの馬鹿!
 何が“何も起きない”だ。
 責任を取れーっ」
声を張り上げて怒鳴る。
不敵な笑みで笑う顔が絳攸の脳にちらつく。
(ふざけろよっ)
才子と名高い絳攸の頭脳は既に記憶の引き出しを開け整理まで済んでいた。
あとは認めるだけだった。
茶州疫病鎮圧。
秀麗の冗官は決定済。
そして、秀麗が茶州から帰ってくるという。
ならば、今は劉輝陛下の上治・・・四年か。
「・・・・アイツ。
 過去を見る鏡がどうのって言ってたな。
 俺が過去にきて、どうする」
絳攸は溜息をつく。
急激に上がった血圧が静まり始めていた。
ぐらりと揺れそうになる眩暈を堪える。
「十年前か」
そういえば、と絳攸は思い出した。
どうも絳攸の記憶の引き出しはイロイロイロイロ余計なものまで引っ張りだしてくれたようだった。

(・・・・・彼は・・・)

・ここまでくればベタなネタの意味が分かるかと。
(20080113)

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