「・・・・どういう意味です」
「邵可様の・・・・。
 時代の裏で縹家・・・異能や術式と闘い続けた貴方の知識が欲しいのです。
 私の首と引き換えに」
絳攸は頭を上げた。
邵可と正面きって顔を合わせる。
絳攸は自分の存在を十分理解していた。
未来の政治情勢を知っているという事。
一部の人間にしてみれば喉から手が出る程に欲しいものだろう。
そして邵可の秘密も。
この世界では、絳攸の存在は混乱を招くだけなのだ。
此処にいてはいけない。
本来ある場所に戻らなければ・・・。
戻るために出来る事。
欲しいもの。
絳攸は取引を提示した。
とてもとても分の悪い取引だった。
邵可は応じる必要など何もない。
絳攸の首。
すなわち“邵可の正体を暴ける口”を塞ぐ一番簡単な方法・・・。

―――なかった事にする。

黒狼の顔を持つ男なら雑作もないだろう。
邵可の顔はニコヤカだった。
射るような視線を除けば。
絳攸の背に冷たい汗が流れる。
邵可は殊更ゆっくりと口を開いた。
「・・・・知っているのですね」
絳攸は一度目を伏せる。
「今から先の話です。
 この事は邵可様御自身から教えて頂きました。
 そして、邵可様の政治手腕は目に焼きついております」
「・・・・・」
「貴方は、動きます。
 静観できないくらい、時代は激動する」
邵可は苦笑した。
たくましい、そう思わずにはいられない。
邵可の目の前にいる男は、確かに“邵可が知る絳攸殿”ではなかった。
(私の気配くらいでは、動じないはずだ)
頭は切れるが、素直な性格が災いして何処か危なっかしい・・・・そんな様子が微塵も感じられない。
「絳攸殿の首、確かに受け取りました。
 貴方の生死は私のもの」
「・・・・邵可様」
「私の持っている縹家の術に関する情報を差し上げましょう。
 代わりに絳攸殿は私に関する情報を口外しない。
 取引成立です。
 ・・・・・・。
 絳攸殿、貴方は未来に帰るべきです。
 存在自身が迷惑。
 私の裏の顔など・・・持ち出さなくても協力は惜しみませんでした。
 何故口にしたのです?
 こんなところで命をかけている場合ではないでしょう?」
絳攸はふっと顔を歪ませた。
にこりと笑ってみせる。
邵可の質問に絳攸は明言を避けた。
「本当に、私もそう思います」
ぱくりと心臓が裂け悲鳴を上げたように思えたが、絳攸は無視を決め込んで笑う。
それ以上は必要がなかった。

・やっとここまで。
 絳攸は今晩の寝床を確保できた模様です。
 ・・・・というか押しかける気満々です。
 そうしないと秀麗と会えませんもの。
 李姫と銘打っているのに・・・・。(20080208)

→彩雲国SStop →TOP