あの時から、塗り薬は秀麗の物になった。
秀麗は塗り薬を手に取る。
“使う事”ができて良かったと思う。
袷にしまっていた日々は壮絶だったから。
茶州に戻った秀麗は沈みそうになると袷をおさえた。
指先が触れる硬い質感。
(指先なんて全然痛まなかった・・・けど・・・)
触れれば思い出した。
薬を握りこませた絳攸様の手。
自分より高い体温。大きな掌。少し硬い指。
そして、ばつの悪そうな絳攸様の顔。

とくん。

心鼓がなる。
一拍分の安らぎ。
秀麗にはそれで十分だった。
十分な活力になった。
顔を上げる事ができたのだから。
あの戦場で。
秀麗のぎりぎりの死活線を支えたのは間違いなく絳攸だった。
そんな事、絳攸は知るよしもないだろうけども。
秀麗は手の中の塗り薬に囁いた。
「おやすみなさい。
 絳攸様」



・絳攸が秀麗に塗り薬を渡す場面。
 実は4回の書き直しがありました。
 うち2回は楸瑛がいたりします。
 将軍鎧を身に着けて、馬の鼻面を撫でながら
 「少し静かにしておいで」
 とバカップルを見守ったりしてます。
 あまりにも長くなりすぎたのでカットです。カット。
 文字の合間合間で、微苦笑している楸瑛さんを想像すると、涙雨7全体の雰囲気が変わるんじゃないでしょうか?
 (20080217)

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