静蘭の後に続きながら絳攸と楸瑛は回廊を歩いていた。
楸瑛は注意深く絳攸を観察する。
(・・・調子が・・悪い?)
門前で胃が痛いのか、とからかった時は気づかなかった。
でも今、はっきりと絳攸の息遣いがおかしい。
不規則に息をつめては荒くならないように努めている。
顔色は青いを通り越して真っ白だった。
ちらりちらりと静蘭も絳攸に視線を送っている。
(やはり静蘭も気づいたか)
身体を鍛錬するにあたり呼吸法は基本である。
「絳攸。・・・君?」
「五月蝿い。
 黙れ」
眉間に皺を寄せて絳攸は言い放った。
絳攸自身、自分に何が起きているのかよく分からなかった。
ただ急におかしくなったのだ。
一歩進む毎に身体にかかる重圧。
吐き気ムカつき、なんだか頭まで痛くなってきた気がする。
絳攸の眉間の皺がますます深くなった。
楸瑛はそっと絳攸との間を少し詰める。
もし倒れたとしても難なく受け止められる位置だった。
(意地っ張りだからねぇ)
楸瑛は絳攸に気を留めながら、前を歩く静蘭を見た。
「静蘭。合わせたい人物って、どなただい?
 今でなくてはいけないのかな?」
「・・・今、御会いするのがいいと思いますよ。
 彼の素性は私も分かりませんが」
「・・・素性が分からない?
 なんだか不用心な話だね」
「恐らく絳攸様なら御存知かと。
 それで会って頂きたいのですよ」
楸瑛は絳攸を見た。
一歩ずつ歩を進める度に容態が悪化しているようだった。
「静蘭。やはり・・・・」
「こちらです」
静蘭は楸瑛の言葉を問答無用で遮った。
(絳攸殿の容態がどうあれ、ここで帰られては困る)
扉の前でぴたりと止まった静蘭は一度絳攸を見る。
容赦のない鋭い視線が絳攸を突き刺す。
絳攸は居心地の悪さを感じていたが、それ以上に体調の急激な変化に戸惑っていた。
楸瑛はやれやれと溜息をつく。
静蘭は扉越しに声をかけた。
「コウ様。
 入ってもよろしいでしょうか」
ややあって室内から声が返る。
「かまわない」
と。
扉の奥。くぐもった声だった。
楸瑛は、え?と隣の絳攸を見る。
声が、似ている?
というより。
(そのものに聞こえた)
楸瑛が見る限り絳攸に変わった様子はなかった。
自分自身に一杯一杯でそれどころじゃないのかもしれないが。
そして、ゆっくりと扉は開かれた。



・ウメ宅の絳攸と楸瑛。二人揃うと何故かお喋りが多くなります。
 静蘭にしっかり手綱をしめてもらわないと!


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