【布陣】


「――そう、言ったそうだよ。
 秀麗殿は」
男は剣の柄を撫でながら言葉を切った。
目を眇めて射るような視線に絳攸は立ち竦んだ。
君はどうするんだい?
そう問われた気がした。


秀麗は庭院に面した石廊を歩いていた。探し人は吏部から戸部に移動し府庫に向かっているらしい。
ありえない。
秀麗は思う。彼は最短距離を使い、時間を一切無駄にせずに移動しているらしいのだ。李絳攸という人を知っていれば天変地異かと思うだろう。
そんな稀なる現象のせいで秀麗は絳攸を捕まえられないでいた。
「ほんとうに、何処へ・・・・」
手には邵可から渡された巾着。絳攸に届けて欲しいと渡されたものだった。ずしりと重い。持ち手が手にくい込んで赤くなっていた。秀麗は巾着の持ち手を変えると溜息をついて昊を仰ぎ見る。澄んだ青に白い月。午前の月は何も照らす事はなく。
・・・・月?
(そういえば、あの時も絳攸様は・・・)

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